北欧という言葉の響き
10月3日土曜日、最終日の前日に愛知県美術館へ滑り込み「スウェーデン絵画」展を鑑賞してきました。スウェーデンといえば北欧の国。
「北欧」という言葉には、おしゃれ、暮らし、デザイン、美しい自然など少し特別な響きや憧れを覚える方も多いのではないでしょうか?
音楽だとアバ、カーディガンズ、ACE of BASEといったスウェッディッシュ・ポップ、車だとSAAB(航空機メーカーでもありドラケン、ビゲン、グリペンも素晴らしいデザイン!)、雑貨だとリサ・ラーソンなど個性的で世界に誇るカルチャーを数多く輩出しています。
では、絵画はどうでしょう?
正直、私はほぼ知りませんでした。(ヒルマ・アフ・クリントくらいです。)
ですが今回、愛知県美術館で開催されていた「スウェーデン絵画」展を鑑賞して、想像以上の心地よさ、光、色彩、そして神聖な空気に触れることができました。
次の章から具体的な作品や感動したポイントを挙げながらどんな展覧会だったかをリポートしていきます。
神秘・光・空気

ニルス・ブロメール<草原の妖精たち>1850年。展示室に入ると、この作品が出迎えてくれました。草原で妖精たちが踊り、左後方にウマに乗った人間が佇んでいます。けれど、特に人は妖精を見て(見えないのか?)驚く様子もない。妖精たちと人が普通に過ごす土地。そのような神秘的な場所がスウェーデンなのでしょう。左から5番目の妖精はこちらを見て柔らかい表情を見せています。恐れのない優しい表情。妖精が当たり前に住む場所と感じさせるこの作品で、一気に神聖な空気に包まれた土地のイメージが膨らみました。

グスタヴ・アンカルクローナ<太古の時代>1897年。19世紀のスウェーデンでは北欧神話や中世の神話的人物伝、冒険などの題材を描くことを求められました。それは古代の探求であり、その行為こそが強い国家をつくるもとになると考えられたためです。
この作品もバイキングが題材となっています。夜空の青みは井戸の高い北欧では長い時間続くのでよく選ばれたモチーフとのことです。

オット・ヘッセルボム<夏の夜(習作)>1900年。水面の輝き、画面にひろがる緑。この作品を観ているとスウェーデンに生きる人のアイデンティティを感じました。
レアリズム

マルクス・ラーション<荒れ狂うボーヒュースレーンの海>1857年。我慢の中央に難破した帆船と脱出した小舟。そのさきの岩場には、裂くに逃げた人びとの姿が描かれています。しかし、荒れ狂う海の前では彼らの未来は暗い。。。しかし、スポットライトのような光が上空から当てられています。作者のマルクス・ラーションは19世紀のスウェーデンを代表する風景画家で、細部の描写、劇的な光の効果、ドラマチックな作工夫で話題となった人物です。
この作品を観て思いだしたのが、フランスの画家テオドール・ジェリコーが描いた写実主義(レアリズム)の最高峰とも言える<メデュース号の筏>(1818~1819年)です。こちらは実際の事件を基に描かれました。ラーションの作品もひょっとしたらジェリコーの影響もあるのかもしれませんね。

ヒューゴ・サルムソン<落穂拾いの少女>1880年代初頭。
落穂拾いというとどうしてもジャン・フランソワ・ミレー1857年の作品を思い出してしまいますよね。それを思い浮かべるのも当然で作者のヒューゴ・サルソンはミレーに大きな影響を受けています。少女のリアルな描き方に対して地面の麦が素早いタッチでササっと描かれているのが対照的で面白いです。

アクセル・ユングステッド<スイスの石切り場>1886年。
まるで写真かと見間違うほどリアルの描かれています。ギュスターブ・クールベ<石割>(1850年)からの影響を感じさせる作品で、子どもまでもが労働力の一員だった現実を描き出しています。
フランス印象派からの影響

エリザベート・ヴァ―リング<ストックホルム群島で読書する女性>1890年頃。
素早い筆致で対象を捉えていく画風は、フランス印象派からの影響を感じる一枚。穏やかのときの流れを感じます。

カール・ノードシュトゥルム<チルケスンド>1911年。
この作品を鑑賞して浮かんだのがポール・セザンヌ。単に風景を風景として描くのはなく幾何学的に構築して描き直すという手法です。画面の再構築という視点を感じました。色合いなんかもちょっと似ているかな。

アウグスト・ストリンドバリ<ワンダーランド>1894年。うっそうとしたした森が主題で中央は洞窟というイメージ。しかし、普通の洞窟という意味ではなく想像の源とも解釈される。
私はこの作品を観てすぐ思いついたのが、晩年のモネ。抽象画の様でした。こちらの<ワンダーランド>も抽象画と思わせる雰囲気を感じます。
スウェーデンの巨匠:カール・ラーションのポップなカラー

カール・ラーション<カードゲームの支度>1901年。

カール・ラーション<手紙書き>1912年。
スウェーデンらしさという日常を絵画に落とし込んだのがカール・ラーション。ポップな色使いが現代的です。
彼が描く自宅(リッラ・ヒュットネス)のインテリアや家具の配置、家族の服装は、当時のヨーロッパで主流だった重厚で暗い装飾とは全く異なり、驚くほど明るく機能的で居心地の良い空間でした。
私たちが今「北欧風」と聞いて思い浮かべる、明るい木の家具やシンプルなインテリア、そして日々の暮らしを慈しむライフスタイルの原点は、まさにこのカール・ラーションの家庭にあったと言われています。時代を超えて、現代のIKEAなどの北欧デザインやカルチャーにも脈々と受け継がれているそのルーツといったところでしょう。
スウェーデン絵画に感じたこと
鑑賞するまではほぼ知らなかったスウェーデン絵画の世界。「北欧」という魔法の言葉の響きそのままの、透き通るような光とあたたかな色彩を感じられました。特に展示のトップバッターがここでも挙げたニルス・ブロメール<草原の妖精たち>だったので、一気に世界観へ引き込まれました。
大自然の風景の中に感じた神聖な気配、光、空気。またカール・ラーションが描いた家族の楽しげな日常。フランス印象派の影響を受けながらも、自分たちの土地や生活を愛おしむように描かれた作品の数々。ゴッホやピカソの作品を観るような派手な驚きこそありませんでしたが、日々の暮らしの中にある光や美しさにそっと目を向けさせてくれる——そう、心落ち着く展覧会でした。またいつか、こうした北欧アートの空気に触れに行きたいと思います。そして叶うならスウェーデンなど北欧の国へ行ってみたいなと思いました。

